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【聴脳研コラム2026第6回】聴覚の社会的復権:「ヒアリングフレイル」の全貌と社会的・経済的インパクト

第6章:テクノロジーの民主化 — 「みんなの聴脳力チェック」アプリ

6.1 アプリケーションによる「見える化」と行動変容

ヒアリングフレイル対策の最大の課題の一つは、「本人が聞こえていないことに気づかない(あるいは認めたくない)」という心理的防衛機制(Denial)にある。この壁を突破するために開発されたのが、iOS用アプリ「みんなの聴脳力チェック」である5

6.1.1 開発体制と産学官連携

本アプリは、単なる民間の健康アプリではない。平成27〜29年度の戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)として、ユニバーサル・サウンドデザイン、東京都立産業技術研究センター、九州大学病院耳鼻咽喉科、アクセルユニバース株式会社による強力な産学官連携プロジェクトによって開発された17。この背景は、アプリの信頼性と医学的妥当性を担保する上で極めて重要である。

6.1.2 機能的特徴とナッジ理論

アプリの機能は、単なる純音聴力検査(ピーという音が聞こえるか)ではなく、「語音聴取能力(言葉の聞き取り)」を測定することに特化している。ノイズ下での言葉の聞き取りなど、実生活に近い環境での「聴こえの脳力」をスコア化し、可視化する。

「耳が悪いですね」と言われると反発する高齢者も、「聴脳力が少し下がっていますね、脳のトレーニングをしましょう」と言われると、前向きに取り組む傾向がある。このアプリは、難聴を「耳の障害」から「脳のパフォーマンス」の問題へとリフレーミング(枠組みの転換)することで、ユーザーの行動変容を促す強力なナッジ(後押し)ツールとなっている。豊中市の事例でも、このアプリによる客観的な数値が、受診行動への強力な動機付けとなった5